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乳酸性作業閾値(LT) 

以下あくまでも自分の勉強メモ。検索キーワード【乳酸性作業閾値、LT、OBLA】

閾値(いきち)とはそこを境目に急に何らかの反応が起こるようになる点の事で、ランニングでは徐々にペースを上げていった際に急に血中乳酸濃度が上昇する点を乳酸性作業閾値(にゅうさんせいさぎょういきち)略してLTと呼ぶ。ちなみに乳酸は疲労物質ではないことは今や運動生理学では常識となりつつある。乳酸ができるから疲労するのではなく、疲労するような運動をしているので乳酸ができる。下の図では3分40秒/km前後のスピードで急に血中の乳酸濃度が上昇しているのでここがLTになる。

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人間の運動中のエネルギー源は脂肪と糖質(グルコース・グリコーゲン)である。体重60kgで体脂肪率が15%の人の場合、脂肪は9000gあり脂肪1gが9kcalなので81000kcalとなる。一方、糖質は筋肉に400g、肝臓に100gと体内に約500gしか貯蔵できない。糖質1gが4kcalなので2000kcalとなる。マラソンを走るのには約3000kcal程度必要なので当然糖質だけでは完走できない。

乳酸とは糖質を材料にエネルギーであるATPを作り出す過程でできるものなので、脂肪を材料にエネルギーを作り出している限り乳酸は増えることはない。例えば普通にウォーキングしている時にはエネルギー源としてほぼ脂肪を使っているので乳酸はできない。また400m走などはエネルギー源としてほぼ糖質を使っているので乳酸ができる。

話を戻すとLTとは血中乳酸濃度が急に上昇する強度であり、LTを超えると体への負担が高まり“きつい”と感じるようになる。その中でも血中乳酸濃度が4mmol/L(ミリモル/リットル)となる強度の事を特にOBLA(オブラ)と呼ぶ。この血中乳酸濃度が4mmol/LのOBLAはマラソン選手のマラソン強度であるとか、維持できる限界の強度であるといった意味づけがされる。ただしあくまで競技レベルの選手の話で、一般市民ランナーがOBLAペースではとてもマラソンを走り切ることはできない。どんなに速いランナーであっても結局は自分のLTを大きく超えたペースでは走れない、言い換えれば速く走れるランナーは遅いランナーよりもLTが高い。

ではLTを境に体の中ではどのような事がおこっているのか。色々な反応があるものの、大きなものは次の3つである。

1:糖質の利用高進
先ほど運動中のエネルギー源として脂肪と糖質があると説明したが、普段の歩行程度の強度であれば人間はほとんど脂肪を利用してエネルギー(ATP)を作っている。なぜなら脂肪はほぼ無限に存在するが、糖質は体内にたった500gしか貯蔵されていない為である。しかし運動強度が上がるにつれて徐々に糖質の利用が高まってくる。なぜなら脂肪からエネルギーを作る工程より糖質からエネルギーを作る工程の方が速い。なのでLTを境に脂肪からエネルギーを作っていると間に合わないので糖質の利用が高進し、どんどん体内の糖質が減少してくる。完全に無くなってからではなく減少している段階から脳は疲労を感じるようになる。脳は偏食家なので通常時にはエネルギー源として糖質しか利用できない、つまり糖質が枯渇することは脳にとっては危機的状況になる。レース中、エネルギー切れを起こして体が動かなくなることがある。しかしそうした状況でも実は脂肪は有り余っている。ただ糖質がなくなってくるといくら脂肪があっても最大酸素摂取量の60~70%程度の速度も維持できなくなってくる。なのでレース中にはこまめな糖質補給(エネルギージェルetc.)が重要になる。下の図ではLTである3分40秒/kmあたりから糖質の利用が高進している。下のランナーであれば、フルマラソンを走る際、4分00秒/km程度のスピードであれば何とか走りきれそうだが、3分30秒/kmのスピードではあっという間に糖質が枯渇してしまい失速するだろう。それだけ糖質は貴重なのだ。

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2:速筋線維の動員
筋肉には収縮速度は遅いが疲れにくい遅筋線維(ちきんせんい)と収縮速度は速いが疲れやすい速筋線維(そっきんせんい)がある。遅筋線維は速筋線維に比べミトコンドリアが発達し、多くの毛細血管に囲まれ、ミオグロビン含量も多い。ちなみにミオグロビンとは筋肉内に存在し血中のヘモグロビンから酸素を受け取り筋肉内で貯蔵する役割をもつ。蛇足だがクジラの筋肉には多くのミオグロビンが存在し酸素を筋肉内に貯蔵できる為に長時間の潜水が可能である。

安静時や強度の低い活動であればほとんど遅筋線維が働いて速筋線維はあまり働かない。だから疲れない。しかしLTを境に遅筋線維のみでは不十分となり速筋線維が動員されるようになる。しかし速筋線維は収縮速度は速いが疲れやすいので長時間働くには不利である。なので徐々に疲労によりきつさを感じるようになる。下の図では
LTである3分40秒/kmあたりから徐々に速筋線維が動員されている。

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3:アドレナリンの分泌
LTを境に副腎の髄質からアドレナリン(ホルモン)が分泌される。アドレナリンは生命の危機やストレスを感じた時に分泌される。アドレナリンには糖分解を高進する働きがある。つまりアドレナリン全開で走るとあっという間に糖は枯渇する。

LT前後のスピードでの練習をおこなうことで体がその強度に慣れ、ストレスを感じにくくなり、アドレナリン分泌が低下する。結果として糖分解の低下と血中乳酸濃度の低下をもたらす。つまりレースではあまり初めからはりきりすぎてアドレナリンを分泌させてはいけない。

まとめると、ランニング強度(スピード)を上げていくと、急に血中の乳酸濃度が上昇する強度があり、それをLT(乳酸性作業閾値)と呼ぶ。LTでの運動は体への負担が大きく“きつい”と感じる。LTを境にエネルギー源として脂肪よりも糖質を多く利用するようになり、遅筋線維だけではなく速筋線維が動員されるようになり、アドレナリンが分泌されてさらに糖分解が高進する。乳酸は糖が分解されることで作られるが、乳酸生成が除去能力を上回ると血中乳酸濃度が上昇し始める。

マラソンのタイムを決める大きな要素は3つ。

①最大酸素摂取量(VO2MAX)
②乳酸性作業閾値(LT)
③ランニングエコノミー(フォームetc.)

1500mや3000mなどではVO2MAX(最大酸素摂取量)がタイムに一番影響を与える。しかしマラソンのような長い距離になってくるとLT(乳酸性作業閾値)の方がタイムに与える影響は大きくなってくる。1500mや3000mではVO2MAXのほぼ100%で走るが、マラソンではVO2MAXの60~80%程度でしか走らない。例えば市民ランナーの川内選手などはトラックの5000mや10000mでは実業団の選手に敵わないが、マラソンでは国内でトップレベルである。なぜならVO2MAX(最大酸素摂取量)では実業団の選手に劣るものの、ことLT(乳酸性作業閾値)においてははるかに優れているからであろう。

VO2MAX(最大酸素摂取量)はある程度のレベルに達すると、さらにトレーニングしてもあまり大きな伸びが得られない。また、年齢と共に確実に減少していく。一方、LT(乳酸性作業閾値)は筋肉の酸化能力であり、すでにトレーニングされてきた選手でもさらにトレーニングによって伸ばすことが可能であり、最大酸素摂取量に比べトレーニングによく反応する。

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上のような3人のランナーがマラソンを走る時、トラブルがなければ一番速くゴールできるのはAである。たとえ3人が30kmまでは3分35秒/kmペースで同時に通過したとしても、BとCはそこから徐々に失速。Aはさらにペースを上げてスパートする。なぜならBとCにとって3分35秒/kmはLTを超えたペースであり、30kmまでに糖質を利用し、速筋を動員してアドレナリン全開で走っているのに対し、Aにとって3分35秒/kmはLT以下のペースであり、30kmまで脂肪を利用し、遅筋を動員して走っているからである。よくTVで日本人選手がなんとか30kmあたりまではケニア・エチオピアの選手についていくも、後半一気に引き離されるのもこれに似たようなものだと思う。

市民ランナーでも月間走行距離の割にいまいちタイムが伸びないのはつまりLTが高まっていない。LTを高めるためにはやはり閾値走が重要で毎日走っても、ジョグや距離走など強度の低い練習だけでは速く走れるようにはならない。閾値ペースでは乳酸が作られるが、その乳酸をすばやくエネルギー源として再利用できる能力が高まり(ミトコンドリアの増殖・毛細血管の発達・速筋線維の遅筋化etc.)、血中乳酸濃度はそれ程上がらなくなってくる。つまりLTが3分40秒/km⇒3分35秒/kmのように上がるのである。さてさて、自分も2時間40分切れるようにLTを上げなければ。。。

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参考文献
スポーツ現場に生かす運動生理・生化学(市村出版)
乳酸と運動生理・生化学-エネルギー代謝の仕組み-(市村出版)

西院かんな整骨院
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