アキレス腱炎・周囲炎【マラソン・ランニング障害】
2014年06月16日 (月)
市民ランナーでアキレス腱の痛みに悩まされている方は多いと思います。アキレス腱炎・アキレス腱周囲炎はいわゆる使い過ぎ症候群で、微細な損傷が繰り返しアキレス腱に起こることによって組織が変性し、その強靭さが徐々に失われていきます。
“変性”とは組織が弱くなることで、例えるなら買ったばっかりの輪ゴムは伸ばしても切れることはありませんが、何度も繰り返し伸ばしていると、その内“もろく”なって伸ばすと簡単に切れてしまいますね。
アキレス腱炎は腱自体の炎症で周囲炎はアキレス腱の周りの組織(脂肪・筋肉)の炎症です。しかし臨床的に区別は不可能なので気にしなくて結構です。ただしエコー検査では腱実質部に炎症が起きているのか周囲に起きているのかはわかります。
通常ランニングをすると多少なりともアキレス腱に微細な損傷は起こりますが、適切に休息をとることで修復されます。しかし練習量が多くなってしまうと修復作業が間に合わなくなりアキレス腱炎・周囲炎を発症します。その他・滑液包炎や腱付着部症などがあります。
正常なアキレス腱は約1t近くの張力に耐えられます。なので20~30代でアキレス腱炎・周囲炎を発症することはあっても断裂する事はほとんどありません。しかし40代以上になると確実に腱の変性により耐えられる張力が低下するためにアキレス腱断裂が増加します。通常断裂するのは踵骨隆起(踵の骨の出っ張り)から約2~6cm上方の位置です。断裂時にはアキレス腱に「ボールが当たった」「後ろから蹴られた」「棒で殴られた」と感じる事が多く、場合によっては“パチン”といった断裂音がはっきり聞こえることもあります。
【 アキレス腱炎・周囲炎の症状 】
①アキレス腱に腫脹がある
②アキレス腱に圧痛がある
③アキレス腱にしこりがある
④走ると痛みが増悪する
⑤階段の上り下りが痛い
⑥足関節を背屈すると痛いetc.
※アキレス腱のしこりは指で軽く腱の上を撫でていくとポコッと小さなふくらみを触れる事ができます。
【 発症要因 】
足の前方に体重がかかりやすいランナーによく起こります。体重が前方に掛かっている状態だとふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋)が過度に緊張した状態になりアキレス腱への負荷が大きくなります。最近はフォアフットブーム(前足部着地)で筋力がともなっていないのに形だけを真似て走るランナーが多いので要注意です!またトレイル等の傾斜を走る事の多いトレイルランナーにも多い傾向があります。その他、地面を蹴るようなランニングフォーム、オーバープロネーション、アキレス腱に当たり過ぎるシューズを履いているランナーにも多い傾向があります。まぁ一番は走り過ぎです。その走り過ぎの距離は個人差があるので300kmで走り過ぎのランナーもいれば600kmで走り過ぎのランナーもいます。単純な距離ではありません。
【 治療 】
痛みが強い時期は腱が修復するまでしっかりと安静をとります。軽症であれば1~2週、中等症で3~6週でしょうか。中途半端な安静は駄目です。これを誤ると慢性化し難治化します。踵の部分を高くする(ヒールパッドを入れる)とアキレス腱の緊張が軽減され疼痛が改善します。今流行りの厚底シューズはどうですか?と言う質問ですが、確かにクッション性のある厚底シューズはアキレス腱の負荷を軽減すると思います。ただし厚底シューズでも安定感のあるものと不安定感が強いものがあるので注意が必要です。
アキレス腱症のリハビリトレーニングには遠心性収縮運動療法(エキセントリックエクササイズ)が唯一効果ありとされています。YouTubeやWEBなどでAlfredson achilles Tendinopathy Protocolと入れれば動画や画像は出てきますが英語です。
階段など段差のある場所で両足つま先立ちの状態がスタートポジションでそこから患側片足立ちになりゆっくり3秒程かけて降ろしていきます。膝を伸ばす(b)と膝を曲げる(c)の2種類をそれぞれ行います。踵を上げるのはただのスタートポジションなので頑張る必要はありません、なるべく痛みのない足の力で持ち上げます。重要なのはそこからゆっくりと踵を降ろしていくことです。壁に手をついた方が安定します。
2種類をそれぞれ15回x3セット、1日2回、12週を目安に行います。最初は多少痛みがあっても継続します。逆に痛みが全くない場合は負荷が弱いのでリュックサックに重りを入れて担いで行います。アキレス腱症には効果がありますが、アキレス腱付着部症にはあまり効果が無いようです。※結構簡単に説明していますので専門家の指導の下行ってください。
アキレス腱炎・周囲炎は難治性になる事が多々あります。なぜなら多少痛みはあっても我慢して走れてしまうのです。特に走り始めは痛いけれど2~3kmすると痛みがなくなると言うランナーが結構多い印象です。しかし無理にランニングを継続すると痛みが常時出現します。
【アキレス腱の超音波(エコー)画像】
①自分の正常アキレス腱は幅が一定(6mm以下)で線状高エコー像(横線) が綺麗にみられます。
②アキレス腱炎のエコー画像です。
特徴は腱の局所肥大と表層部の低エコー像(横線が消えて黒くなっている)です。
③正常像とアキレス腱炎のエコー画像です。
④アキレス腱は前後径が6mmを超えると異常と判断されます
⑤アキレス腱付着部症のエコー画像です。
1つ目は正常像。2つ目はアキレス腱付着部症。
アキレス腱付着部症ではかかとの骨に骨棘(コツキョク)が見られます。
骨棘はレントゲンでは下図のように描出されます。
⑥滑液包炎のエコー画像です。踵骨とアキレス腱の摩擦を軽減する踵骨後滑液包(しょうこつこうかつえきほう)が炎症を起こし水腫がみられます。
下図の方は前日から急にアキレス腱の痛みを発症。発赤(+) 腫脹(+) 圧痛(+)でエコーで観察すると、踵骨後滑液包に水腫が溜まり、パワードプラ(炎症を確認するモード)で健側に比べて異常な血流信号を確認。
患側と健側
アキレス腱炎の動画
アキレス腱に炎症が起こっていると点線□の枠内に赤い点滅が確認できます。これは組織が壊れるとそこを修復するために周りの血管からアキレス腱に向かって新しい血管が伸びてきます。
【雑学】
慢性的にコレステロール値が高い人の場合もアキレス腱が太くなります。これは、血液中のコレステロールや中性脂肪がアキレス腱に沈着する為です。アキレス腱が太い場合は動脈硬化による心筋梗塞のリスクが高くなっている可能性があります。アキレス腱にコレステロールが溜まりやすいということは心臓の血管も同じ状態にあります。特に下の写真の部分を指でつまんで厚みが2cm以上ある場合は要注意です。アキレス腱の太さから心筋梗塞のリスクがわかるって意外ですよね。興味がある方は『アキレス腱・コレステロール・心臓病』で検索してみて下さい。
自分のアキレス腱です。
そもそもアキレス腱が体表からつまんで2cm以上やX線撮影で9mm以上の場合、アキレス腱黄色腫(けんおうしょくしゅ)の疑いがあります。アキレス腱黄色腫は家族性高コレステロール血症(心臓病のリスクが13倍)という病気により、アキレス腱にコレステロールが沈着する遺伝性疾患です。動脈硬化により突然死の危険もあり要注意です。水泳の北島選手のライバルで突然亡くなったダーレ・オーエン選手(享年26歳)の死因は心筋梗塞で、親族も若くして心筋梗塞でなくなっているので、家族性高コレステロール血症であったと言われています。
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マラソン・ランニング・ジョギング障害!


“変性”とは組織が弱くなることで、例えるなら買ったばっかりの輪ゴムは伸ばしても切れることはありませんが、何度も繰り返し伸ばしていると、その内“もろく”なって伸ばすと簡単に切れてしまいますね。
アキレス腱炎は腱自体の炎症で周囲炎はアキレス腱の周りの組織(脂肪・筋肉)の炎症です。しかし臨床的に区別は不可能なので気にしなくて結構です。ただしエコー検査では腱実質部に炎症が起きているのか周囲に起きているのかはわかります。
通常ランニングをすると多少なりともアキレス腱に微細な損傷は起こりますが、適切に休息をとることで修復されます。しかし練習量が多くなってしまうと修復作業が間に合わなくなりアキレス腱炎・周囲炎を発症します。その他・滑液包炎や腱付着部症などがあります。

正常なアキレス腱は約1t近くの張力に耐えられます。なので20~30代でアキレス腱炎・周囲炎を発症することはあっても断裂する事はほとんどありません。しかし40代以上になると確実に腱の変性により耐えられる張力が低下するためにアキレス腱断裂が増加します。通常断裂するのは踵骨隆起(踵の骨の出っ張り)から約2~6cm上方の位置です。断裂時にはアキレス腱に「ボールが当たった」「後ろから蹴られた」「棒で殴られた」と感じる事が多く、場合によっては“パチン”といった断裂音がはっきり聞こえることもあります。
【 アキレス腱炎・周囲炎の症状 】
①アキレス腱に腫脹がある
②アキレス腱に圧痛がある
③アキレス腱にしこりがある
④走ると痛みが増悪する
⑤階段の上り下りが痛い
⑥足関節を背屈すると痛いetc.
※アキレス腱のしこりは指で軽く腱の上を撫でていくとポコッと小さなふくらみを触れる事ができます。
【 発症要因 】
足の前方に体重がかかりやすいランナーによく起こります。体重が前方に掛かっている状態だとふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋)が過度に緊張した状態になりアキレス腱への負荷が大きくなります。最近はフォアフットブーム(前足部着地)で筋力がともなっていないのに形だけを真似て走るランナーが多いので要注意です!またトレイル等の傾斜を走る事の多いトレイルランナーにも多い傾向があります。その他、地面を蹴るようなランニングフォーム、オーバープロネーション、アキレス腱に当たり過ぎるシューズを履いているランナーにも多い傾向があります。まぁ一番は走り過ぎです。その走り過ぎの距離は個人差があるので300kmで走り過ぎのランナーもいれば600kmで走り過ぎのランナーもいます。単純な距離ではありません。
【 治療 】
痛みが強い時期は腱が修復するまでしっかりと安静をとります。軽症であれば1~2週、中等症で3~6週でしょうか。中途半端な安静は駄目です。これを誤ると慢性化し難治化します。踵の部分を高くする(ヒールパッドを入れる)とアキレス腱の緊張が軽減され疼痛が改善します。今流行りの厚底シューズはどうですか?と言う質問ですが、確かにクッション性のある厚底シューズはアキレス腱の負荷を軽減すると思います。ただし厚底シューズでも安定感のあるものと不安定感が強いものがあるので注意が必要です。
アキレス腱症のリハビリトレーニングには遠心性収縮運動療法(エキセントリックエクササイズ)が唯一効果ありとされています。YouTubeやWEBなどでAlfredson achilles Tendinopathy Protocolと入れれば動画や画像は出てきますが英語です。

階段など段差のある場所で両足つま先立ちの状態がスタートポジションでそこから患側片足立ちになりゆっくり3秒程かけて降ろしていきます。膝を伸ばす(b)と膝を曲げる(c)の2種類をそれぞれ行います。踵を上げるのはただのスタートポジションなので頑張る必要はありません、なるべく痛みのない足の力で持ち上げます。重要なのはそこからゆっくりと踵を降ろしていくことです。壁に手をついた方が安定します。
2種類をそれぞれ15回x3セット、1日2回、12週を目安に行います。最初は多少痛みがあっても継続します。逆に痛みが全くない場合は負荷が弱いのでリュックサックに重りを入れて担いで行います。アキレス腱症には効果がありますが、アキレス腱付着部症にはあまり効果が無いようです。※結構簡単に説明していますので専門家の指導の下行ってください。
アキレス腱炎・周囲炎は難治性になる事が多々あります。なぜなら多少痛みはあっても我慢して走れてしまうのです。特に走り始めは痛いけれど2~3kmすると痛みがなくなると言うランナーが結構多い印象です。しかし無理にランニングを継続すると痛みが常時出現します。
【アキレス腱の超音波(エコー)画像】
①自分の正常アキレス腱は幅が一定(6mm以下)で線状高エコー像(横線) が綺麗にみられます。


②アキレス腱炎のエコー画像です。
特徴は腱の局所肥大と表層部の低エコー像(横線が消えて黒くなっている)です。

③正常像とアキレス腱炎のエコー画像です。

④アキレス腱は前後径が6mmを超えると異常と判断されます


⑤アキレス腱付着部症のエコー画像です。
1つ目は正常像。2つ目はアキレス腱付着部症。
アキレス腱付着部症ではかかとの骨に骨棘(コツキョク)が見られます。


骨棘はレントゲンでは下図のように描出されます。

⑥滑液包炎のエコー画像です。踵骨とアキレス腱の摩擦を軽減する踵骨後滑液包(しょうこつこうかつえきほう)が炎症を起こし水腫がみられます。

下図の方は前日から急にアキレス腱の痛みを発症。発赤(+) 腫脹(+) 圧痛(+)でエコーで観察すると、踵骨後滑液包に水腫が溜まり、パワードプラ(炎症を確認するモード)で健側に比べて異常な血流信号を確認。

患側と健側

アキレス腱炎の動画
アキレス腱に炎症が起こっていると点線□の枠内に赤い点滅が確認できます。これは組織が壊れるとそこを修復するために周りの血管からアキレス腱に向かって新しい血管が伸びてきます。
【雑学】
慢性的にコレステロール値が高い人の場合もアキレス腱が太くなります。これは、血液中のコレステロールや中性脂肪がアキレス腱に沈着する為です。アキレス腱が太い場合は動脈硬化による心筋梗塞のリスクが高くなっている可能性があります。アキレス腱にコレステロールが溜まりやすいということは心臓の血管も同じ状態にあります。特に下の写真の部分を指でつまんで厚みが2cm以上ある場合は要注意です。アキレス腱の太さから心筋梗塞のリスクがわかるって意外ですよね。興味がある方は『アキレス腱・コレステロール・心臓病』で検索してみて下さい。

そもそもアキレス腱が体表からつまんで2cm以上やX線撮影で9mm以上の場合、アキレス腱黄色腫(けんおうしょくしゅ)の疑いがあります。アキレス腱黄色腫は家族性高コレステロール血症(心臓病のリスクが13倍)という病気により、アキレス腱にコレステロールが沈着する遺伝性疾患です。動脈硬化により突然死の危険もあり要注意です。水泳の北島選手のライバルで突然亡くなったダーレ・オーエン選手(享年26歳)の死因は心筋梗塞で、親族も若くして心筋梗塞でなくなっているので、家族性高コレステロール血症であったと言われています。
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