膝の関節炎・滑膜炎【マラソン・ランニング障害】
2016年11月01日 (火)
走っていると膝が痛くなる。ランナーなら誰もが一度は経験する事だと思います。通常ならしばらく休めば痛みは消失しますが、数週間~数ヶ月経っても痛みが引かない場合、それは膝に慢性の関節炎・滑膜炎を発症しているかもしれません。今回はあくまでもランニング障害としての外傷性の関節炎・滑膜炎を主に扱います。
※関節炎・滑膜炎を発症する疾患は関節リウマチ・偽痛風・細菌感染・変形性膝関節症など他にも鑑別するべき疾患が複数あります。
関節の構造と滑膜
膝関節は関節包(かんせつほう)と呼ばれる袋に包まれています。その関節包の内側の壁面が滑膜(かつまく)と呼ばれる組織です。関節包より内がわを関節包内、外がわを関節包外と呼び、一般的に関節炎・滑膜炎は関節包内での炎症を指します。ランナーに多い腸脛靭帯炎や鵞足炎は関節包外の障害になります。
レントゲンでは異常なし、でも痛い
長引く膝の痛みがあってもレントゲン(X-ray)では異常なしと言われてしまう事が多々あります。特に初期の変形性膝関節症ではレントゲンでは大きな異常所見が見られません。医学的にはレントゲンでの画像所見と痛みにはそれ程強い相関関係がない事が常識となっています。
どういう事かと言うと、レントゲンではあまり変形は見られないのに痛みが強い方もいれば、レントゲンでは強い変形があるにもかかわらず全く痛みを感じない方もおられます。(MRIでは比較的画像所見と痛みに相関関係があります)
そもそも40歳以上の5人に1人が程度の差こそあれ変形性膝関節症と言われていますが、その全員に膝の痛みがあるかと言われるとそうではありません。下の画像では変形の程度はAさんの方が強いのですが、痛みはBさんの方が強かったりします。
それよりも痛みが”ある“と”ない“は滑膜の炎症の程度と強い相関関係があります。関節の軟骨には痛みを感じる神経(受容器)がないのですり減ろうが裂けようが痛みを感じません。しかし滑膜は関節内で最も血管が豊富で痛みを感じる神経が沢山分布しているために炎症を起こすと強い痛みを感じます。
滑膜の役割
正常な膝の関節包内には関節液がわずかに1~3ccしかありません。この関節液を作り出しているのが滑膜です。滑膜は関節液を作り出すだけではなく、関節液中のいらなくなった不要なごみを回収する役割もあります。その関節液の働きは主に2つです。
①関節液にはヒアルロン酸やたんぱく質が含まれ粘り気があります。その関節液が軟骨表面を覆い潤滑油となりスムースな関節運動を助けます。
②さらに関節の軟骨には血管がありません。栄養がなければ軟骨は壊死してしまいますが、軟骨はこの関節液から栄養を受け取っています。
滑膜炎はなぜ起こる
原因の一つとして軟骨の変性(劣化)があります。膝に繰り返し衝撃が加わるなどで小さな軟骨の破片が関節液中にぷかぷか浮遊します。その軟骨の破片は滑膜に取り込まれるのですがそれが滑膜の炎症を誘発します。滑膜炎を発症すると滑膜は通常よりも多くの関節液を作り出すようになります。これがいわゆる“膝に水が溜まる”状態です。
花粉症に例えると花粉(軟骨の破片)が鼻の粘膜(滑膜)に付着すると炎症を起こして鼻水(関節液)が止めどなく流れます。鼻を何度かんでも流れ続けますが、鼻粘膜(滑膜)の炎症が収まれば同時に鼻水(関節液)も正常な量に戻ります。
さらに炎症を起こした滑膜からは追い打ちをかけるように炎症を誘発する種々の化学物質が放出され、軟骨の変性(劣化)を進行させます。こうなってしまうとまさに悪循環です。
ランナーの場合、脚筋力の不足が原因になる事もあります。着地動作の際には膝関節には体重の数十倍もの衝撃が加わります。ただ通常は膝周囲の筋肉によってその衝撃を和らげます。しかし例えばフルマラソンの30km以降。足に力が入らない状態、疲労した状態では筋肉による衝撃吸収機能が上手く働かず関節への強い衝撃が加わり炎症を起こします。
関節炎・滑膜炎のエコー画像
下の図は正常な膝関節のエコー画像です。矢印部分が関節包(滑膜)です。
下の図は変形性膝関節症と滑膜の肥厚です。関節包が大きく上に盛り上がっています。
エコーではドプラー機能とよばれるものがあり、滑膜が炎症を起こしているかを確認できます。画面の□の枠の中で赤や青の点滅が複数みられるのは炎症を起こしているサインです。正常な関節ではわずかに正常な血管が描出される程度ですが、滑膜炎を起こした関節では滑膜に増殖した異常な血管が描出されています。
下の動画は同一人物の健側(良い方)と患側(悪い方)のドプラー動画です。変形の程度は左右それ程違いはありませんが、炎症は痛みのある患側の膝に強く見られます。
下図はある市民ランナーの膝のエコー画像です。フルマラソンの後半に膝の内側が痛くなり我慢して完走するも激痛に。膝の内側を押すと痛みが強く、関節炎か鵞足炎か判断が難しいところですが、エコーを確認するとどちらかと言えば関節の炎症が強く確認できます。
関節炎・滑膜炎の治療
まずは炎症を抑える為に安静が必要です。ランナーであればランニングを中止します。痛みを我慢しながらの運動は症状を悪化させます。消炎鎮痛作用のある湿布を貼るのも痛みが強い時期には有効です。炎症が軽度であればそれで治癒します。サポーターなどで圧迫し膝の動きを制限してあげる事も効果的です。
中等度以上で痛みが長引く場合には場合によっては病院や整形外科等でヒアルロン酸の注射を行ないます。ヒアルロン酸には関節の動きを滑らかにすると同時に炎症を抑える効果があります。
ある程度痛みのピークを過ぎれば、膝周囲の筋肉に痛みが出ない範囲でトレーニングを行います。特に太もも前面の大腿四頭筋の強化が重要です。スクワットや大腿四頭筋セッティング(検索して下さい)が有効です。
無理に動かす事は炎症を助長する為に控えましょう。ランナーあるある、『走って治す』は筋肉や腱の痛みの場合は有効な事も多々ありますが、関節炎、滑膜炎の場合はあまり効果がありません。
※関節包内の怪我には変形性膝関節症・膝蓋大腿関節症・タナ障害・離断性骨軟骨炎・突発性骨壊死・ジョギング愛好家にみられる脛骨内側顆疲労骨折など鑑別すべき疾患が複数あるので素人判断は禁物です。痛みが長引く場合には必ず専門家に診てもらいましょう。
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西院かんな整骨院
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※関節炎・滑膜炎を発症する疾患は関節リウマチ・偽痛風・細菌感染・変形性膝関節症など他にも鑑別するべき疾患が複数あります。
関節の構造と滑膜
膝関節は関節包(かんせつほう)と呼ばれる袋に包まれています。その関節包の内側の壁面が滑膜(かつまく)と呼ばれる組織です。関節包より内がわを関節包内、外がわを関節包外と呼び、一般的に関節炎・滑膜炎は関節包内での炎症を指します。ランナーに多い腸脛靭帯炎や鵞足炎は関節包外の障害になります。

レントゲンでは異常なし、でも痛い
長引く膝の痛みがあってもレントゲン(X-ray)では異常なしと言われてしまう事が多々あります。特に初期の変形性膝関節症ではレントゲンでは大きな異常所見が見られません。医学的にはレントゲンでの画像所見と痛みにはそれ程強い相関関係がない事が常識となっています。
どういう事かと言うと、レントゲンではあまり変形は見られないのに痛みが強い方もいれば、レントゲンでは強い変形があるにもかかわらず全く痛みを感じない方もおられます。(MRIでは比較的画像所見と痛みに相関関係があります)
そもそも40歳以上の5人に1人が程度の差こそあれ変形性膝関節症と言われていますが、その全員に膝の痛みがあるかと言われるとそうではありません。下の画像では変形の程度はAさんの方が強いのですが、痛みはBさんの方が強かったりします。

それよりも痛みが”ある“と”ない“は滑膜の炎症の程度と強い相関関係があります。関節の軟骨には痛みを感じる神経(受容器)がないのですり減ろうが裂けようが痛みを感じません。しかし滑膜は関節内で最も血管が豊富で痛みを感じる神経が沢山分布しているために炎症を起こすと強い痛みを感じます。

滑膜の役割
正常な膝の関節包内には関節液がわずかに1~3ccしかありません。この関節液を作り出しているのが滑膜です。滑膜は関節液を作り出すだけではなく、関節液中のいらなくなった不要なごみを回収する役割もあります。その関節液の働きは主に2つです。

①関節液にはヒアルロン酸やたんぱく質が含まれ粘り気があります。その関節液が軟骨表面を覆い潤滑油となりスムースな関節運動を助けます。
②さらに関節の軟骨には血管がありません。栄養がなければ軟骨は壊死してしまいますが、軟骨はこの関節液から栄養を受け取っています。
滑膜炎はなぜ起こる
原因の一つとして軟骨の変性(劣化)があります。膝に繰り返し衝撃が加わるなどで小さな軟骨の破片が関節液中にぷかぷか浮遊します。その軟骨の破片は滑膜に取り込まれるのですがそれが滑膜の炎症を誘発します。滑膜炎を発症すると滑膜は通常よりも多くの関節液を作り出すようになります。これがいわゆる“膝に水が溜まる”状態です。
花粉症に例えると花粉(軟骨の破片)が鼻の粘膜(滑膜)に付着すると炎症を起こして鼻水(関節液)が止めどなく流れます。鼻を何度かんでも流れ続けますが、鼻粘膜(滑膜)の炎症が収まれば同時に鼻水(関節液)も正常な量に戻ります。
さらに炎症を起こした滑膜からは追い打ちをかけるように炎症を誘発する種々の化学物質が放出され、軟骨の変性(劣化)を進行させます。こうなってしまうとまさに悪循環です。
ランナーの場合、脚筋力の不足が原因になる事もあります。着地動作の際には膝関節には体重の数十倍もの衝撃が加わります。ただ通常は膝周囲の筋肉によってその衝撃を和らげます。しかし例えばフルマラソンの30km以降。足に力が入らない状態、疲労した状態では筋肉による衝撃吸収機能が上手く働かず関節への強い衝撃が加わり炎症を起こします。
関節炎・滑膜炎のエコー画像
下の図は正常な膝関節のエコー画像です。矢印部分が関節包(滑膜)です。

下の図は変形性膝関節症と滑膜の肥厚です。関節包が大きく上に盛り上がっています。

エコーではドプラー機能とよばれるものがあり、滑膜が炎症を起こしているかを確認できます。画面の□の枠の中で赤や青の点滅が複数みられるのは炎症を起こしているサインです。正常な関節ではわずかに正常な血管が描出される程度ですが、滑膜炎を起こした関節では滑膜に増殖した異常な血管が描出されています。

下の動画は同一人物の健側(良い方)と患側(悪い方)のドプラー動画です。変形の程度は左右それ程違いはありませんが、炎症は痛みのある患側の膝に強く見られます。
下図はある市民ランナーの膝のエコー画像です。フルマラソンの後半に膝の内側が痛くなり我慢して完走するも激痛に。膝の内側を押すと痛みが強く、関節炎か鵞足炎か判断が難しいところですが、エコーを確認するとどちらかと言えば関節の炎症が強く確認できます。
関節炎・滑膜炎の治療
まずは炎症を抑える為に安静が必要です。ランナーであればランニングを中止します。痛みを我慢しながらの運動は症状を悪化させます。消炎鎮痛作用のある湿布を貼るのも痛みが強い時期には有効です。炎症が軽度であればそれで治癒します。サポーターなどで圧迫し膝の動きを制限してあげる事も効果的です。
中等度以上で痛みが長引く場合には場合によっては病院や整形外科等でヒアルロン酸の注射を行ないます。ヒアルロン酸には関節の動きを滑らかにすると同時に炎症を抑える効果があります。
ある程度痛みのピークを過ぎれば、膝周囲の筋肉に痛みが出ない範囲でトレーニングを行います。特に太もも前面の大腿四頭筋の強化が重要です。スクワットや大腿四頭筋セッティング(検索して下さい)が有効です。
無理に動かす事は炎症を助長する為に控えましょう。ランナーあるある、『走って治す』は筋肉や腱の痛みの場合は有効な事も多々ありますが、関節炎、滑膜炎の場合はあまり効果がありません。
※関節包内の怪我には変形性膝関節症・膝蓋大腿関節症・タナ障害・離断性骨軟骨炎・突発性骨壊死・ジョギング愛好家にみられる脛骨内側顆疲労骨折など鑑別すべき疾患が複数あるので素人判断は禁物です。痛みが長引く場合には必ず専門家に診てもらいましょう。
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