腓骨筋腱炎・腓骨筋腱鞘炎【マラソン・ランニング障害】
2017年03月31日 (金)
特に足首を捻じった訳でもないのに外くるぶし周囲に痛みや腫れがある、もしくは足首を捻挫(ねんざ)した後に外くるぶし周囲に長引く痛みがある場合、それは腓骨筋腱(ひこつきんけん)の障害かもしれません。主に下の図の○部分に痛みが現れます。
緑:腓骨筋腱断裂・腓骨筋腱脱臼・亜脱臼
青:腓骨筋腱炎・腱鞘炎・腓骨筋滑車症候群
赤:短腓骨筋腱付着部症
腓骨筋とは
腓骨筋は下腿の外側の上の方①から始まる長腓骨筋(ちょうひこつきん)と下の方②から始まる短腓骨筋(たんひこつきん)の二つがあります。(細かく言えば第3腓骨筋や人によっては第4腓骨筋(5~21.7%)がある)
長腓骨筋が表層に、短腓骨筋が深層に存在します。それぞれの腱は外くるぶしの後ろを通り短腓骨筋腱は第五中足骨に停止し、長腓骨筋腱は足底を通って内側楔状骨と第一中足骨に停止します。
腓骨筋腱は下図の①上腓骨筋支帯(じょうひこつきんしたい)と②下腓骨筋支帯(かひこつきんしたい)と呼ばれるバンドのような組織で押さえつけられています。また腓骨筋支帯を通過する前には③腱鞘(けんしょう)と呼ばれるトンネルの中に入り込み周囲との摩擦を軽減します。
腓骨筋腱の障害の種類
腓骨筋腱の障害には様々なものがあります。主なものは腓骨筋腱炎・腱鞘炎・腱断裂・脱臼・亜脱臼・付着部症などでしょうか。
原因は運動時の内返しや外返しの繰り返し動作や足首の捻挫に合併したり、また足首を捻挫した後に関節が緩くなりその状態でランニングを続ける事で発症する事も多いようです。(慢性の足首の外側靭帯不全(関節が緩い)で手術を試行した患者の77%に腓骨筋腱腱鞘炎がみられたとの報告もあります)
腓骨筋腱炎・腱鞘炎
時に上腓骨筋支帯と下腓骨筋支帯の間に腱の肥厚(一部が膨らむ)がみられます。腱が肥厚すると下腓骨筋支帯の部分で通過障害を起こし痛みが出ます。
腓骨筋腱断裂
ほとんどの場合、短腓骨筋腱に縦断裂が起こります。短腓骨筋腱は骨と長腓骨筋腱に挟まれているために余裕がありません。手術を要した腓骨筋腱障害の患者では短腓骨筋腱では88%に縦断裂がみられたのに対し、長腓骨筋腱では13%であったとの報告もあります。
ただし腓骨筋腱の縦断裂は日本人の屍体標本による検討では、112足中42足(37.5%)に縦断裂を含めた短腓骨筋腱の病変を認めたとの報告もあるため、短腓骨筋の損傷は臨床症状がなくても比較的高率に存在するようです。
腓骨筋腱脱臼・亜脱臼
ほとんどの場合、長腓骨筋が外くるぶしを後ろから前へ脱臼します。頻度は非常にまれです。また常時脱臼しているわけではないので見逃されやすいのですが、足首を甲側に曲げた状態で外くるぶしの後ろから指で前方に腱を押すと脱臼が再現できることもあります。
腓骨筋腱障害の症状
外くるぶし周囲の疼痛
圧痛(押すと痛い)
腫脹(腫れている)
着地動作時痛
引っかかり感
脱臼感
内返しのストレスで痛みがある
運動をした翌日の朝一番の痛み(first-step pain)
検査
MRIやエコー検査が有用です。ただしほとんどの場合は症状や所見で判断できます。
その他、徒手検査では下記のものが提唱されています。
Peroneal tunnel compression test
患者を診察台に腰かけ下肢を下垂させ、検者の母指で上腓骨筋支帯を圧迫し自動背屈・外反させ疼痛を誘発するテストで、轢音も触知される。
鑑別すべき疾患としては前距腓靭帯損傷・踵腓靭帯損傷・二分靭帯損傷・腓骨や距骨剥離骨折・第5中足骨骨折・足根洞症候群・踵骨前方突起骨折・踵骨疲労骨折などでしょうか。
保存治療
まずは安静が必要です。(できないランナーが多そうですが)しかし痛みを我慢して運動を続けると確実に悪化します。オフシーズンであれば思い切って2~6週くらい休足しましょう。その間はエアロバイクなど痛みがでない運動で心肺機能を維持するのがおすすめです。また腓骨筋が凝り固まっている場合はマッサージで緩めます。
症状が強い場合には装具やギプスによる固定が必要な場合もあります。
また原因がはっきりしている場合は原因を取り除きます。例えば不整地でのランニング、傾斜部でのランニング、シューズの不適合(幅の狭い窮屈なシューズ)など。シューズの外側の減りが早い場合にはインソールなどで調整します。
一概には言えませんが土踏まずが内側に倒れ込むプロネーションではなく、その逆のサピネーションの人に多く発症する傾向にあるので、外側を高くしたインソールなどが作られます。
手術
長期間の放置例や狭窄性腱鞘炎、縦断裂をきたして遷延化すると手術適応となる事が多くなります。手術では狭窄性腱鞘炎であれば下腓骨筋支帯を切開したり肥大した腱の部分を切除、縦断裂では変性した腱の部分を切除し断裂部を縫合し管状に形を整えたりします。
一般に、適切に手術療法が行われれば、術後の成績は非常に良好とされています。スポーツマンで手術的に治療した患者(49例)のうち、87%がスポーツ活動に復帰。復帰までの平均は3.49ヶ月。
腓骨筋腱脱臼・亜脱臼の場合は新鮮例(急性)でさえ4~6週間のギプス固定での治癒率は50%で、確実なスポーツ復帰を目指す場合や陳旧例(慢性)では手術が必要になる事が多いようです。
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西院かんな整骨院
京都市|中京区|右京区|下京区|
マラソン・ランニング・ジョギング障害!
参考文献
杉田直樹,立花陽明,坂口勝信.足部・足関節の捻挫で生ずる腱傷害.関節外科 2014;33:38-43
窪田誠.腓骨筋腱損傷・障害の診断と治療.関節外科 2017;36:66-71
鈴木朱美,石垣大介,高木理彰.腓骨筋腱脱臼の診断と治療.関節外科 2017;36:72-81

緑:腓骨筋腱断裂・腓骨筋腱脱臼・亜脱臼
青:腓骨筋腱炎・腱鞘炎・腓骨筋滑車症候群
赤:短腓骨筋腱付着部症
腓骨筋とは
腓骨筋は下腿の外側の上の方①から始まる長腓骨筋(ちょうひこつきん)と下の方②から始まる短腓骨筋(たんひこつきん)の二つがあります。(細かく言えば第3腓骨筋や人によっては第4腓骨筋(5~21.7%)がある)
長腓骨筋が表層に、短腓骨筋が深層に存在します。それぞれの腱は外くるぶしの後ろを通り短腓骨筋腱は第五中足骨に停止し、長腓骨筋腱は足底を通って内側楔状骨と第一中足骨に停止します。


腓骨筋腱は下図の①上腓骨筋支帯(じょうひこつきんしたい)と②下腓骨筋支帯(かひこつきんしたい)と呼ばれるバンドのような組織で押さえつけられています。また腓骨筋支帯を通過する前には③腱鞘(けんしょう)と呼ばれるトンネルの中に入り込み周囲との摩擦を軽減します。

腓骨筋腱の障害の種類
腓骨筋腱の障害には様々なものがあります。主なものは腓骨筋腱炎・腱鞘炎・腱断裂・脱臼・亜脱臼・付着部症などでしょうか。
原因は運動時の内返しや外返しの繰り返し動作や足首の捻挫に合併したり、また足首を捻挫した後に関節が緩くなりその状態でランニングを続ける事で発症する事も多いようです。(慢性の足首の外側靭帯不全(関節が緩い)で手術を試行した患者の77%に腓骨筋腱腱鞘炎がみられたとの報告もあります)

腓骨筋腱炎・腱鞘炎
時に上腓骨筋支帯と下腓骨筋支帯の間に腱の肥厚(一部が膨らむ)がみられます。腱が肥厚すると下腓骨筋支帯の部分で通過障害を起こし痛みが出ます。
腓骨筋腱断裂
ほとんどの場合、短腓骨筋腱に縦断裂が起こります。短腓骨筋腱は骨と長腓骨筋腱に挟まれているために余裕がありません。手術を要した腓骨筋腱障害の患者では短腓骨筋腱では88%に縦断裂がみられたのに対し、長腓骨筋腱では13%であったとの報告もあります。
ただし腓骨筋腱の縦断裂は日本人の屍体標本による検討では、112足中42足(37.5%)に縦断裂を含めた短腓骨筋腱の病変を認めたとの報告もあるため、短腓骨筋の損傷は臨床症状がなくても比較的高率に存在するようです。
腓骨筋腱脱臼・亜脱臼
ほとんどの場合、長腓骨筋が外くるぶしを後ろから前へ脱臼します。頻度は非常にまれです。また常時脱臼しているわけではないので見逃されやすいのですが、足首を甲側に曲げた状態で外くるぶしの後ろから指で前方に腱を押すと脱臼が再現できることもあります。


腓骨筋腱障害の症状
外くるぶし周囲の疼痛
圧痛(押すと痛い)
腫脹(腫れている)
着地動作時痛
引っかかり感
脱臼感
内返しのストレスで痛みがある
運動をした翌日の朝一番の痛み(first-step pain)
検査
MRIやエコー検査が有用です。ただしほとんどの場合は症状や所見で判断できます。
その他、徒手検査では下記のものが提唱されています。
Peroneal tunnel compression test
患者を診察台に腰かけ下肢を下垂させ、検者の母指で上腓骨筋支帯を圧迫し自動背屈・外反させ疼痛を誘発するテストで、轢音も触知される。
鑑別すべき疾患としては前距腓靭帯損傷・踵腓靭帯損傷・二分靭帯損傷・腓骨や距骨剥離骨折・第5中足骨骨折・足根洞症候群・踵骨前方突起骨折・踵骨疲労骨折などでしょうか。
保存治療
まずは安静が必要です。(できないランナーが多そうですが)しかし痛みを我慢して運動を続けると確実に悪化します。オフシーズンであれば思い切って2~6週くらい休足しましょう。その間はエアロバイクなど痛みがでない運動で心肺機能を維持するのがおすすめです。また腓骨筋が凝り固まっている場合はマッサージで緩めます。
症状が強い場合には装具やギプスによる固定が必要な場合もあります。
また原因がはっきりしている場合は原因を取り除きます。例えば不整地でのランニング、傾斜部でのランニング、シューズの不適合(幅の狭い窮屈なシューズ)など。シューズの外側の減りが早い場合にはインソールなどで調整します。
一概には言えませんが土踏まずが内側に倒れ込むプロネーションではなく、その逆のサピネーションの人に多く発症する傾向にあるので、外側を高くしたインソールなどが作られます。


手術
長期間の放置例や狭窄性腱鞘炎、縦断裂をきたして遷延化すると手術適応となる事が多くなります。手術では狭窄性腱鞘炎であれば下腓骨筋支帯を切開したり肥大した腱の部分を切除、縦断裂では変性した腱の部分を切除し断裂部を縫合し管状に形を整えたりします。
一般に、適切に手術療法が行われれば、術後の成績は非常に良好とされています。スポーツマンで手術的に治療した患者(49例)のうち、87%がスポーツ活動に復帰。復帰までの平均は3.49ヶ月。

腓骨筋腱脱臼・亜脱臼の場合は新鮮例(急性)でさえ4~6週間のギプス固定での治癒率は50%で、確実なスポーツ復帰を目指す場合や陳旧例(慢性)では手術が必要になる事が多いようです。
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マラソン・ランニング・ジョギング障害!
参考文献
杉田直樹,立花陽明,坂口勝信.足部・足関節の捻挫で生ずる腱傷害.関節外科 2014;33:38-43
窪田誠.腓骨筋腱損傷・障害の診断と治療.関節外科 2017;36:66-71
鈴木朱美,石垣大介,高木理彰.腓骨筋腱脱臼の診断と治療.関節外科 2017;36:72-81